壁がなかった頃
レジル・アジールという男がいた。
後にタイタンと呼ばれる集団の1人だった。力と鉄で身を固めた戦士達。首には毛皮と牙、体には金色の線が施された華美なプレート、肩にはトロフィー。
これはシティがシティと呼ばれる前の話だ。
壁もまだ建てられていない。浮遊した脆く巨大な球体の影に隠れていたが、まだ壁はなかった。
救済を求める者達が来た。生存者だ。絶滅の危機に瀕し、疲れきった人達。
理知が存在する前の時代。研究が信念と融合する前。
この巨大な球体は神のように崇められた。もしかすると、今でもそう崇められているのかもしれない。
身を寄せ合った戦士達からファクションが生まれた。似通った考えの者達が集まって人々を援助し、安心感を与えた。時が経つにつれ、ファクションはその影響力を広げることに躍起になった。それまでは違いから学んでいたのに、加入することでもっと大きな世界に対する理解を得られていたのに、それが逆に対立の原因になってしまった。人類の聖域で勃発した権力闘争。光の影が日に日に暗くなっていった。人類の最後のオアシスであるこの場所が、少しずつ蜃気楼に変わっていった。
強き女、強き男。復活した者として知られる者達がファクションの側についた。守護、執行者、可能性の誤用。
悲しみがこの偽りの楽園に広がった。だが、希望が完全になくなったわけではない。
巨大な球体の下に生まれたこの社会の亀裂を見て、復活した者の一部がその修復を試みた。この者達は対立の道具として使われることを拒否し、自分の意思を持って行動することにした。
こうして、起こる必要のない戦争が欲、野望、恐れによって「必要」と見られるようになった。だが、この対立の混沌の中で、人類のおこぼれを狙うエイリアンが現れた。共有の敵だ。
最終的にこのエイリアンを撃退し、ファクションはその信条を残しながらも地位を失った。これがガーディアンの始まりとなった。力が目的を見つけた瞬間だ。繁栄に手が届く日も近い。
これら戦争で最も活躍したのがレジルだ。偉大な指導者。だが、このエイリアンに対してはそれ以上の働きをしてくれた。この巨大な球体が神でなければ、レジルがそうだったのかもしれない。
勤労と犠牲の下に最初の壁が建てられ、レジルとガーディアン達は何度も貪欲なエイリアンから人類を守った。到着する生存者の数が増え、戦士の数も増えた。
ガーディアンが増えた。
シティが成長した。
希望が生まれた。レジルにとっては宝だった。希望が明日を迎えてくれる。明日が今日を生き残る力をくれる。
だが、レジルは不安を抱くようになった。物語で悪夢にうなされるようになった。古く、もう語られることのない物語。誰もが恐れて口に出すこともできない物語。太陽が地平線に沈むと月が照らし始める。レジルはいろいろなことを考え始めた。どれだけ安全なら、安全と言えるのか?いまだ人類を脅かす暗黒とあとどれだけ戦っていけるのか?
毎日、レジルは戦い、壁を建て、人類を守った。毎日、シティは巨大な球体の下で成長を見せた。そして毎晩、レジルは人々が口にしない恐怖について考え、空に浮かぶ月をひたすら見つめた。