The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

再誕III

最初に彼らが植民した巨体は全長1キロメートルの居住艀であった。その反応炉は動力を生み出し続け、重力は地球の4分の3で保たれていた。この艀は遥か以前に基礎的サブルーチンにまで縮小されたAIによって制御され、最後にオールトの雲を形成する彗星を小惑星帯へと引っ張り込むという任務を終えた。そして彗星の位置変更に関する命令が下されなかったことから、次に彗星に手を加える作業を開始した。その表面にはドームと土の地層が加えられ、光子圧によりピンと張った係留ミラーが星の光を銀色の明かりとして集光し、これが酸素の森に十分な食料を与えた。これが完成すれば緑と古代の氷が形作る荘厳な光景になっていたはずだが、その地表には火災が発生してしまう。炎が酸素を燃料にあらゆる物を燃やし尽くし、残ったものといえば虫と鼠であった。しかし鼠は彼らが帰還して初めて遭遇した知的生物であり、また虫は食用可能であったことから、マラはこの状況を修正手段としては十分な効果があると判断した。 船体とその乗客たちはポケット脱出によって無事に済むことはなかった。急増大したダークエネルギーによって極小特異点型ワームホールが発生、合金とセラミックの船殻装甲を飴のように引き裂いたのだ。そして異なる宇宙の狭間に在る悪夢の境界線を通過する際に、船内AIと論理システムが徹底的に破壊されてしまっていた。 もはや彼らは繭を棄てねばならなかった。ユルドレンの調査によって、かつて互助のために小惑星帯に群がって宇宙船が放棄され、これが環礁を形成しているのが発見された。マラの旅に加わることを決めたジェンシム書記官は小躍りしながら文化的痕跡や古代の記録の収集を開始した。 「船体を回収しましょう」マラはスジュール・エイドに伝えた。「今も使用可能な資材やシステムを引っ張り出して、この巨体の生体システムを復旧させる。安定した重力を形成できれば、子供を作り始めることができるわ」 「武装が必要になりますね」スジュールは明るく言った。「今の化学物質では火器は作れませんし、持ってきた悪技術では船殻ごと吹き飛ばしてしまいます。また糸射出工具、小惑星や巨体から衛星を射出する装置なども同様でしょう。こんな状況で私がいま何を考えているか、解りますか?」 「とても予想がつかないわ」マラはとぼけた。彼女はスジュール・エイドが人と同じ高さの弓に弦をかける姿を思い浮かべ、その考えをトランプ手品のように頭の中から消した。そのような心地よい発想に浸っている暇はない。「弓術に関係していることではないでしょうね?」 「旧式の大型コンパウンドボウに、戦術的なあれこれを付け加えるんです」スジュールは刺激的な考えを思い浮かべながらうろついた。「そして私は宇宙で初めて、長弓で通信衛星を恒星周回軌道に上げた女になるわけです」 「どうかしてるわ」マラはそう言いつつ、スジュールの無遠慮な喜びの笑顔に、彼女とこの環礁全域を探索して再建する事に、そしてスジュールを暴力と危険に送り込むという恐怖と興奮に満ちた考えに対して一瞬の暖かな心配と安心を感じた。 「ところで」スジュールは自分の求めるものを手に入れるべく、その一瞬の隙に飛び込んだ。「地球のことはいつ皆に訴えるのですか?」 当初、彼らは地球が廃墟の世界であると考えていたが、そうではないことを示す兆候があった。少なくとも、機械によって喰われた死体のような金星とは異なっていた。「ユルドレンが無人機の展開を終えてからよ」マラは目を細めた。「スジュール、私の考えていることが聞こえる?」 「それって、テレパシー的にということですか?」女王の護衛は目を閉じた。「皆ちょっと気味悪がってはいますけれど、発信まで出来るとは——ちょっと、マラ!」