摂政
「なるほど。それで私達のウルブズ船は?」
「全て破壊されました。カリックス・シンは残りましたが、ひどく損傷しています。今はパラスへ向かっています」
「ガレー船は?」
「基地に残ったものはまだ使えます。パラスにも少し手配してあります」
「数は?」
「ええと...12機です」
「造船工は?」
「...わかりません」
「わかりました。ハラムを市民の防衛に。カマラと手の空いている者を秘密裏にSAR操作へ向かわせてください。敵との戦闘は何としても避けるように。もし生存者を見つけた場合は、すぐ私に知らせてください」
「了解、司令官。通信を終了します」
通信機のランプが消え、ペトラは気持ちを落ち着けようと深呼吸した。スイッチに手を伸ばして前屈みになり、ダイヤルを調整する。その手は震えている。「司令官」...彼女は司令官になるはずではなかった。彼女が目指していたのは、ただマラに仕え彼女を守ること。しかし今マラ・ソヴは——
マラ・ソヴは...
マラ・ソヴは生きている。彼女はどこかで生きているはずなのだ。約束したのだから!
ガレー船の操縦桿を握りなおし、ペトラは進路を入り組んだ岸辺へと向けた。飛行中も彼女は通信機のチャンネルをいくつも切り替え続けた。ハイヴが基地になだれ込み、側近たちは避難のための警護を要求している。デビは消息不明だ。ガーディアンのジャンプシップが次々とハイヴの巨大な船に突っ込んでいくが、何らかの防御シールドに阻まれるばかりである。100機のシーダーがケレスに上陸している。ハラムは全ての市民を、彼がシールドを施した街の中心部へと避難させている。さらに200機のシーダーがパラスへ。スカイバーナーの兵団が、牙を迎え撃つために出動した。ウルフの味方は弱っている。デビが見つかった。
ペトラは通信機を切ることが出来ずにいた。情報に耳を傾け続けた。かろうじて息を継ぐ。本当は航路を変え、自ら旗艦に突っ込んで行きたかった。悪趣味な装飾を施した船体に激しくぶつかり、彼女が死に際に発するであろう、真に迫るはっきりとした叫びがあの醜い野獣共の耳に届いたとき、奴らが自分の犯した残虐行為を悔いてくれたらいいのにと願った。彼女はマラが生きていると信じたかったが、しかしどうやって、マラの存在を感じることが出来ずにそれを信じられるだろうか。この呪われた計画の全貌を知らずに、一体どうやって?
ペトラは危険な角度で盗賊の地への着陸姿勢を取り、低空飛行で岸辺をあっという間に横切った。大気はチリやほこりでどんよりと重く、自分の足元もよく見えないほどだ。レーダーをたどって進む。
無意識に息をひそめる。
そして——あった。監視塔だ。
ペトラは食いしばった歯の間からため息を漏らした。
塔は完全な形で、傷一つない。