I. 報告
「スロアン?」
ザヴァラ司令官の声は、水中にいるかのようにくぐもっていた。そしてスロアンの背筋に走る悪寒がその感覚をより一層強めた。
自分が長い間いなくなっていたことは理解している。ただ、実際どれだけの期間だったのかは分からない。タイタンがスロアンを連れて失跡してからすぐに、シアハーンの内部クロノメーターが故障した。スロアンは身体の感覚に頼って時間の流れを計ることしかできなかった。
宇宙は彼女を置き去りにした。当然といえば当然だが。しかしまだ、スロアンはザヴァラからの報告を信じられずにいる… 言葉が次々と津波のように押し寄せる。まるでその波に突き倒され、肺が塩水で満たされるかのように感じられる。
ステイシス。カイアトル。ハウス・オブ・ライト。サバスン。ルーセントブルード。ネオムナ。
…アマンダ。
スロアンはおのずと、カバル大戦時の頃を回顧していた。ホリデイのホークが頭上を飛行し、コールサインや冗談混じりの声かけが飛び交っていた。戦士たちの間で交わされる雑談。絶え間なく続く銃撃とジェットエンジン音の合間に、戦士たちは静かなひと時や笑いを共有する。少しずつ大理石へと刻まれてきた友情だ。
アマンダは常に恐れ知らずだった。彼女はいつでも最初に立ち上がり、最後に帰還する者だった。
なぜ彼女はいつもああやって英雄にならなければいけなかったのだ?
「スロアン」ザヴァラが繰り返す。
スロアンは拳を固く握りしめていたことに気が付く。震えていたかもしれない。スロアンの目は司令官に戻り、2人の視線が合う。
彼女の記憶しているザヴァラとは別人のような彼がそこにいる。年を取り、聡明さが感じられる彼の眼に、スロアンは不意を突かれた。
その眼に映るのは… 哀れみだろうか?
彼には見えているのだろうか? 彼女の腹の底で大きくなっていく穴が。彼女のすべてを飲み込もうと膨張し続ける深い裂け目が。ザヴァラは彼女の決意を疑っているのだろうか? このまま任務を遂行し、他の者がそうせずに済むように、自ら前線へと戻って尽力するという彼女の決意を。
<お前の弱さは見透かされているのか?>
スロアンは再び拳を握りしめた。
「司令官、報告の内容は理解した」彼女の声は揺るがない。
ザヴァラが眉をひそめる。「整理するのに時間がかかるはずだ。もう少し――」
「必要ない」
短い沈黙が過ぎる。スロアンはザヴァラに感情を見せない。ザヴァラは頷く。
「分かった。以上だ」
スロアンは敬礼し、持ち場に戻る。
これから彼女は最初に立ち上がる者となる。
そして最後に帰還する者となる。