The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

6つ目の封印、第2章

それぞれに言いたいことを言った。ミアは冷え切ったテーブルに手を置いた。「避難します。ジアナ、ババテュンデを呼んでダイカーを掘削孔から引き上げてください。3時間以内に潜水艦の待機所に繋いで。市民をドームの中に入れて、近場の海上の船舶を使って衛星軌道上の回収に回します」タイタンの海は水でもなく青くもないが、彼女はそれでも「海上」という言い方を好んだ。古風な人柄が表れている。「その後、船員を避難させます。それから皆も続きましょう」 イスマイル・バラーが何か言おうとして口を開いた。実際に言葉を発する前に、丁寧に手入れされた彼の繊細な髭の一本一本が揺れたのを、彼女は一生忘れないだろう。 警報が彼女の感覚中枢で鳴り響いた。 席に着いていた全員(イスマイルを除き)がビクッと驚き、ミアはたった今歴史的な爆発に立ち会ったことを自覚し、それが不可逆な変化をもたらすことも分かっていた。 「スブハンアッラー」と、イスマイルが自身の第三言語であるアラビア語で驚きを表す言葉を発した。 「誤報ではないようですね」とモーリー・ヤマシタが呟く。 警報は、通常の視野とシンクロしつつも阻害することは決してない幻覚的な映像が浮かぶミアの意識内のスペースを駆け巡った。「トラベラーがイオを出発。地球化活動未完了。地球に向けて加速。先例のない行動」 時たま、ミオは新太平洋環境都市が彼女の中を移動しているように感じる。新太平洋環境都市を氷の殻へと固定している、プラスチールとスピンメタルで構成された160メートルの構造体が、自身の原動力を支えているような感覚。ジアナと同じように、彼女の骨は骨以上のものなのかもしれない。 そういった感覚を覚えるたびに、彼女はこう思う。ここでは空からガソリンが降り注ぎ、外は摂氏マイナス180度の寒さで、どんなに快適に過ごせたとしても、ここでの生活は綱渡りになる。特に、人間にとっては。 そして、それもまもなく終わる。 彼女は船員に向かって市長に伝える内容を話した。「皆をこの街から脱出させなければならない。トラベラーが向かう先は安住の地に違いない」 彼女は人類にとって最善の道を提案し、トラベラーの倫理観を最も厳密に理論として纏め上げ提唱することで、“グッドマン”の名をものにしたデイビッド・コロセクを見た。「トラベラーは何が起きても私たちを守る。そうでしょう?」 デイビッドは正直な子供が心苦しくするかのように彼女を見つめた。 「ああ」と彼は答えた。「それしかできないからな」