The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

狩猟中

1体のカバル兵を追い、前方の花畑を通り抜ける。大量殺戮の現場からまろび出た、最後のリージョナリーだった。負傷し、止血帯から黒い油が滴っている。その跡をたどりながら、ユルドレンは冷たい悪意に満ちた怒りに駆られていた。このガーデンで戦だと?間抜けなカバルの探検なんぞで勃発した争い。下らない、実に忌まわしい...報いを受けて当然だ。ガーデンはありのまま存在させるべきだろう?秘密の果実が自生するように... 地面は傾斜に差し掛かった。赤い花々が、背の低い絡まった草むらへ紛れてゆく。風が囁く...柔らかな語彙、原初の文法だけで構成されたようなセンテンス、音楽的なこの律動。ジョルヨンが小さく呟いた。「脳が侵される...」頭を支配するような声におののく姿は、何かの感染症を恐れているようにも見えた。「もうそろそろ...」と言いかけた彼の声は、ユルドレンがどんどん前進することで掻き消える。ユルドレンは絡み合った下生えを事も無く通り抜け、低い谷を下りてゆき、ベックスを見つけた。ベックスだけではない、何十体ものゴブリン、ミノタウロスがいる。石像のように動かず、苔に覆われ、輪になって並んでいる。ストーンヘンジならぬロボットヘンジか。それらは歌っていた。旋律は儚く、生気に欠け、しかし人間にはない清澄さがこもっていた。この場所がいったい何なのか、ユルドレンは知っている。 カバルのリージョナリーは、石の後ろにしゃがみ込んでいた。ユルドレンがそっと忍び寄る。傷つき、呻くカバルが気づいた時にはもう、彼はナイフをその頭部に当てていた。唇の割れ目、およびその下の柔らかい組織の真上に押し付ける。「動くな」ウルラント語で話しかける。「声も上げるな。最高に研ぎ抜かれた一本だ」 「言われんでも分かる」リージョナリーは現地語で唸った。「おらの目の前にあんだから。ほんとに毛を剃られるかと思ったべ」 「ここがどこか分かるか?」 「おらが行ったことのある中で、1、2を争う最悪な場所...」 「空気の素晴らしさが分からないのか?」ユルドレンは言う。「実に甘美だ。花粉の香り。雷鳴の余韻。お前はなぜここに来た?」 「来たくて来たわけじゃねぇことは確かだ、旦那。おらたちミルクロボットに誘拐されてきたんだ」 低く抑えた発話には、若干ウルラント語の文法が混ざっている。ユルドレンの疑念は確信に変わった。ここは、生存と繁殖をかけて互いに捕食し合う、概念上の戦場なのだ。ベックスが歌い、ガーデンはそれを何かに変換する。この会話さえも大気中に濃い影響を与えているようだ。「あいつらはなぜここにいる?何をしたいんだ?」 「あいつらはここで祈っているんだよ、旦那。自分たちを材料にしてデカい船を造ってる。最低なやつらだよ。生き物を憎んでる」 「どうしてそれが分かる?」 「ああ、種が教えてくれるんだ、旦那」リージョナリーが言う。「見えるかい?」躊躇なくヘルメットを殴りつけ、緊急医療装置を作動させる。密閉シールが破れ、黒いジェルの輪がシューシューと音を立てながら噴き出す。リージョナリーは崩れ落ちた。ヘルメットが彼の幅広な膝の上に転がる。 ジェル層の下で、彼の頭蓋骨全面が、ボコボコとした苺状のテクスチャに変わる。何千もの小さな種が、カバルの肉にうずもれて輝いている。ユルドレンはうっとりと、その皮膚に触れた。 「ユルドレン」ジョルヨンが無線を寄越した。「今お前、最大級にゲスい顔してるぞ」 「この地には秘密があるんだ」王子はつぶやきを返す。骨伝導マイクは冷たく無機質で、どうにも体にしっくりこない。それに比べて密集した「あばた」でぽこぽことした質感を得た、リージョナリーの温かな奇形頭蓋骨...「たくさんの秘密が、彼の中で育ってる。ジョルヨン。ガーデンは彼の中で秘密を育てていたんだ」 「だから何なんだよ?」ジョルヨンはぴしゃりとはねつける。「脱出しようや、王子様。ここの連中に何が起きたか知らないが、同じ目に遭わないうちに!」 ユルドレンは察した。ジョルヨンは神秘を恐れている。未知が彼を怯えさせている。実に賢明。実に合理的。有能な斥候、有能な兵士、そして生存者として正しい反応だ。 しかしユルドレンはどうしても想像してしまう。マラはこの場所を見て、どんなに驚嘆するだろう。もし、ここに連れて来られたら。この地をいっしょに探索できたら。