歪み
潜みし者は地球における時空の歪みの研究に力を注いでいる。彼らはサンプルを相互参照し、目撃者に聴取を行って入り組んだ計算モデルを作っている。その邪魔をするつもりはないが、私が知りたいのは「どうやって?」ではなく… 「なぜ?」だ。
まずは宿られた兵から調べなくては。時空の歪みは本質的に予期せぬ結果を招く。誘導者の残響を破壊したことで、宿られた兵の潜在能力が解放されたのか… それとも歪みの原因は別のところにあるのか。
エウロパにある黄金時代の遺跡の近くで新たに独立した宿られた兵を見つけた。奴らの行動に従来の集団的パターンは確認できず、因果的に独立している。奴らが亜空間を移動する間隔に一貫性はないものと考えられる。頻発している時間の歪みと奴らを関連付ける行動はない、一つを除いて…
潜みし者がエウロパで奇妙なものを見つけた。ベックスがはぐれた宿られた兵を捕らえるために、奴らを防衛区画へおびき寄せているのだ。まるで昆虫を捕らえる昆虫学者だ。これは今までの縄張り争いというよりは、実験的サンプリングと言ったほうが説明がつく。
私のエウロパでの調査に実りがあった。不覚にも歯が1本欠けてしまったが、ベックスのミノタウロスの生け捕りに成功した。生体に私の数多くの仮説を試すのが楽しみだ。
成果はまずまずだった。生け捕りしたミノタウロスのフレームから様々なデータを得るという主目的は達成した。しかし、セキュリティの配慮が足りず、ベックスは自爆シーケンスを起動してしまった。焦げたレディオラリアの臭いが今も私の船の内部にこびりついている。
捕らえたミノタウロスからは興味深いデータをダウンロードできた。標準プロトコルの他にも、「非合理的」としか言いようのないデータが大量に含まれていた。まるで理解できない言語の情報を書き写したかのようだ。こういう時こそブリアの専門知識が役に立つのに。
捕らえたミノタウロスに含まれていた「非合理的」なデータから次のような結論が導き出せる。このベックスフレームはエウロパで記録されていたコレクティブではなく、ネッススの亀裂に所属していた。マヤの研究は彼女をさらに遠くへ導いているようだ。
捕らえたマヤのベックスから回収した「非合理的」なデータが船のシステムに被害を与えている。ファイアウォールに与えた影響からすると、既知のマルウェアでないどころか、技術的に生まれたものですらない。どうやら、侵入は私の時空間連続体の中で発生したバグのようだ。
ハロクタの一族から派生したハイヴの呪文のおかげで私の船を汚染したバグを隔離することができた。しかし、大規模な損傷を免れることはできなかった。複数の重要な部品の劣化が進んでおり、ものの数分で何年分もの酸化現象にさらされてしまった。一方で、他の部品の中には、製造直後の状態まで回復しているものもある。
時間のバグによって私の船のシステムに及んだダメージは幅広いが、有益でもあった。これは新たな仮説の裏付けになる。ベックスは超因果を超える力、すなわち時そのものを操る力を研究している。もしこれが正しければ、ベックスはこの混乱を媒介しているにすぎず、その元凶ではないことになる。