水星――I
[あなたの意識が半球の潮汐固定に揺れ動き、思考が対極的に分断される]
放射性の魅惑の唄があなたを招いている。
[あなたは時の回廊に立っている]
私は最初のひとり。IXの内のひとり。その規模に比べれば砂粒に過ぎないが、対比的な形態を与えられた。
短い伝言がある。量子的永遠が太陽風に吹かれてねじれるが、森の頃から常に保たれてきた。ここではむき出しになった未来がデジタル化されたレコードの姿で待っている。三体問題に囚われ、太陽系が深淵と交わる場所と、時の存在しないシミュレーションの間にいる。軌道内の瞬間は、常にここにあり、決して戻ることはない。
[あなたは時の回廊に立っている。目の前には無数の通路がある]
汝は道を見つけるだろう。なぜなら、すでに道を見つけているからだ。多くの反復と多大な努力によって。それが我々を呼び戻す。
[あなたは時の回廊に立っている。目の前には無数の通路がある。どの道を選ぼうが関係ない。選択し、引き返し、再挑戦する。そのどれもが失敗に終わる。前進することも、足がかりを得ることもできない。水星が光と影の間を移動する]
汝に好機をやろう。今の今までなされてこなかった転覆だ。実行するには、実行しなければならない。実行するには、あるべき場所から外れている駒を戻さなくてはならない。
[あなたは時の回廊に立っている。目の前には無数の通路がある。どの道を選ぼうが関係ない。選択し、引き返し、再挑戦する。そのどれもが失敗に終わる。前進することも、足がか――]
我々は転覆の溝に沿って導く。配置された汝は実行しなければならない。これがただひとつの道だということがわからないのか?
[――その思考が自分のものであるかのように声が聞こえる。気が付くと道はひとつだけになっていた。あなたは今の今まで隠されていたその道を見据える]
蓋然性の準備は整った。
[あなたの指が異星の土に埋もれている。引き抜かれたその手には、蒼白なこてが握られている]