The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

リイク

リイクは手を前に導き、こん棒を掴んで、フレームの持てる全ての力で押した。容疑者の体は後方へ転がる。「落ち着け!」また物理的な手を持つというのは不思議な感覚だった。正確には彼がクラウドアーク内から操縦するセキュリティフレームのものだが、リイクはまたこの物理的な手を使いたいとは思えなかった。 襲撃者が無力化されたことで、フレームチームに加えて盗難物資の記録を担当する調査VCが突入してきた。そして生身のジンゲ指揮官が現場に入る。リイクは瞬時に背筋を伸ばす。 「指揮官自らお越しになるとは聞いておりませんでした」 「どの程度回収できるのか見に来ただけよ、巡査」ボロボロの棚にはナノマシン液、栄養剤、バッテリー、アセンブラーなど、非賛同者10名以上が数年は孤立状態でも生きていけるだけの物資が立ち並ぶ。それらを見て回るのだろうというリイクの予想に反し、ツェはうつ伏せになった容疑者の前で足を止めた。「大変な一日ね?」 「下には行かんぞ!」男は公共店舗から盗まれた大量の物資の前に座り、その目は反抗心に燃えていた。 ジンゲは立ち上がる手助けをするように手を差し伸べるが、男はそれをはたく。希望と憎悪の単純な会話。その裏で、男からは恐怖心がにじみ出ていた。 指揮官はため息を吐き、リイクのフレームに向きなおる。「彼は怖がってるだけです」リイクが言葉をかける。 「怖いのは誰でも同じよ、巡査。でも、この非賛同者教団は… 新しい環境で生き延びるくらいなら、過去の生き方で死ぬ方がマシという姿勢よ」彼女は普段は忍耐強い顔をしかめた。「たとえ、その結果として他の皆が死ぬことになろうともね」 「妹が精神医療サービスに勤めているのですが、プーカの力も借りれないため人手不足だと聞いています。彼らはどうなるのでしょう?」 「アディニュー評議員は、アップロードを希望しない市民には深層冷凍睡眠に入ることを認めているわ」 「協力せずに、すべてが終わるまで眠るってことですか?」リイクは容疑者を引っ張りあげながら、思わずそう漏らす。その会話を聞いた盗難犯の虚勢が溶けて消える。「それを望む者がいると?」 「さあね」ジンゲは立ち去ろうと動き出す。「でも、これ以上解決策を探している時間はない」