カイス
「そしてマルコは、ドリアンみたいに大きな目でこう言ったんだ。『ダメだよお爺ちゃん、流されてるんだから!』ってな。」それは思わず笑ってしまうような、あまりにも下らない冗談だった。しかし、メンドーザさんの身ぶりは変化していた。彼は椅子に深く座り込んで背を預け、偽装したハーピーを相手にしているかのようにカイスを睨みつけるのも止めた。高齢者を落ち着かせるなら、家族のことを尋ねるのが一番――その助言をしてくれた上司に心の中で感謝した。
メンドーザさんは目元の涙をぬぐい、カイスの机に両手を突いた。「で。私を凍らせるつもりかね」
「それはよくある誤解でして」カイスはその誤解をもう何週間も解こうとしてきたが、「冷凍睡眠」という分かりやすい単語が一人歩きしつづけていた。「むしろ冬眠に近いんです。体温と新陳代謝は下がりますが、精神はクラウドアークの中で問題なく動きつづけます」
「ほう? 私も昔はアークってたもんだ。まあ、ずいぶん昔の話だし、最近はひ孫たちに会うために音声通話をするくらいさ… 背骨が曲がってからはモノレールが辛くてね」と言いながら、椅子の中で体重を移動させた。
「最近は『アークる』とは言わないかもしれませんね。でも現実で直接会うような感じで、お孫さんたちとお会いできますよ」
カイスは壁のモニターを起動させて、ネオムナの映像を映した。唯一違うのは…
「雲がない」彼は感心したように口笛を吹く。
「着陸地点と読んでいます。都市を完全に再現した場所です。物理法則も現実と変わらない。天気は向こうのほうが良いですけどね。クラウドアークでの生活に慣れるため、まずはこちらで暮らすことになります。あなたの体も、今のあなたを完全再現したものになります。慣れましたら、自分のアバターをカスタマイズしたり、新しい空間を作ったり、刺激が欲しいならクラウドアークの奥を探検したりするための授業も用意していますよ」
「いいんじゃないか。でも、その… 体の完全再現、だったか?」
「ええ、ニューロンの1つ1つまで今のままです」
「背骨を伸ばした状態にはできんかね?」