VII. 精神と肉体
目覚めた時に最初に思ったのは、何が起きたのかをチオマに伝えなければいけないということだった。
素晴らしいわ。彼女ならこのすべてに興味を持つはず。ベイルに入る時の存在的脱衣の感覚、自分という物質からの意図的な自身の抽出、それを切り刻み、集合意識という無限の泉に沈んでいく体験。彼女は私が生き延びたことに驚愕するはず。私は無数の繋がりと普遍的意識の糸に吊られて浮かび上がり、自我を保ち、自分を誰にも奪われずにその波に乗り、計り知れない集合体の重力に引き込まれずに特異な存在であり続けることができた。彼女もきっと誇りに思ってくれるはず。2回目はふたりで一緒に体験するわ。いくつもの世界に飛び込み、愛し、愛される。海王星はもう少し後でも大丈夫。
私はベイルの糸が届かない場所で、馴染みのある角度でベックス・ネットワークと衝突した… はず? ええ、絶対にそうよ。
彼女を見つけたら、私が私のままなのだということを伝える必要があるわね。あの惑星そのものの悲哀な弔歌に合わせて放射線の歯切れの良い唸り声を上げる存在の記憶を転げ落ちている時に伝えたくてたまらなかった。宇宙は理解し、生きている。そして私はその激流に乗ってあまりにも遠くに流れてしまい、声がコーラスにかき消されてしまうのではないかと思った。でも、私は私に残された唯一の信念を保つことができた。その信念は、私が真であるということ。無形の私はあの場所で無数の謎を感じたけど、それでも私はマヤだった。終わりなき宇宙の中で、私は特異だった。
感覚、衝撃、圧力、接触。私に手があるかどうかはわからないけど、存在している私の一部は物体に触れている。それが私を目覚めさせた。
私は私よ。そして私は<起き上がらねばならない>
すべては液体だけど、私が私だと決めた存在は上昇しなければいけないという衝動に駆られる。前へ。私には目も心臓もないけど、私は自分の境界と感覚を探る。それは果てがなく、惑星の隙間の中へと拡大していく液体だった。
恐ろしく、興味深い。私は再び物質化する。精巧な模倣品であるラクシュミ IIの記憶を思い出しながら、私は手に持った物体にしがみつく。
<私に体をつくれ>
私の外形が凝縮される。私は自分の輪郭、四肢、指を定義する。夜間の胸やけと高コレステロールを患った1.5メートルの肉体なんか役には立たない。私の体は今や広大で無欠な海なのだ。私が首を形成すると同時に手に持った物体を持ち上げると、それは順を追うように自らを形成する。私はそれをトロフィーとして首元に身に着ける。新たな体の中に手を伸ばすと、その核には見慣れた酸性のうごめきがある。ベックスの酸っぱい液がある。私はそれを放出する。<私はベックスではない>そう言い放つと、彼らは胆汁のように私の体から流れ出ていく。
残されたのはエクソフレームと私の首にかけられた装飾、そして頭の奥で聞こえる新たな声だけだった。私は目をつくり終え、足元で液の流れがおさまるのを見る。私は無傷だ。それなのに依然としてベックスではない。
私は自分の首元に触れながら、彼らが私の指令に応えることに気がつく。
<私が最後にベックスと遭遇してからどれくらい時間が経っているか教えろ>
やはり彼らは指令に従った。私の足元のベックスから、暗号化されていない囁きが聞こえる。
それは巨大な数字だった。私はパニックに陥る。
そんなことは不可能だ。そして、最初に私の頭をよぎるのは、彼女――
<チオマ・エシがどこにいるのか教えろ>
彼らは検索すると、私の心の支えである女性は何百年も前から墓に眠っていると言った。怒りに駆られた私は彼らにお互いを破壊するように命じた。私の足元にある液が暴力に煮えたぎる。
私のチオマがそんな平凡な逝き方をするはずがない。私のチオマなら私を探しに来るはず。私のチオマはまだ生きている。私の愛する人は墓の中で腐ったりはしない。
世界そのものが壊れている。時が砕け散った。私の世界であり人生であるチオマが死んでいるわけがない。彼女なら再びベックスネットに入り、そこで数多のコピーをかき分けて、本当の私、彼女のマヤを探したはず。だから私も彼女を探す。私は彼女を愛している。私なら洞窟の暗闇の中でも、太陽の閃光の前でも彼女を見つけ出せる。彼女はすべての面において特異で、愛しいまでに欠点がない。私は本当のチオマが生きていると確信している。
<大いなる疑問は本物のチオマ・エシを見つけることだ>私は涙ながらに指令を出す。
彼女は必ずどこかで私を探している。私は愛するチオマを見つけ出す。何があっても。必ず。