The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

明日に向かって目を閉じて

「真っ先に引き金を引こうとするのは素人だ。 獲物を仕留めるのは早撃ちじゃない。目だ。集中した、鋭い目。 あとは、『死』を感じるな。 死はそこにある。それが分かっていればいい。 それだけで、死のほうから引き金に抱きついてくる」 C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書——「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 ピルファ・ファントム。ピルファ・ブラインド。全能の目を持つフォールン・バロンで射撃の名手だ。アウォークンは「ヘルライズ渓谷のゴースト」は彼の仕事だと信じており、伝説的人物として扱っている。昔の彼はしばしば、谷の中枢近くにある迷宮のような洞窟を、仲間のバロンがむりやり制圧しようと躍起になっているのを横目に、曲がりくねった奥地へ単独で赴いては侵入者を排除したりコルセアのレイドパーティーを阻止したりしていた。 ウルブズの暴動時、彼は姿こそ現さなかったが、女王の宮殿に詰めた衛兵を抹消した功績は、ほぼ彼のものだとされた。目撃者は皆無だが、すべての狙撃が一発で決まっており、あまりに見事で、正確に致命傷を与えていたから。 しかし彼は、かつて使い物にならないとされ、ハウスからも格下に見られていた、盲目の狙撃手なのだ。そんなピルファが何故、火星の片面で最凶のスナイパーになれたのか? まず、強さの秘密として、今のピルファはペアを組んで行動している。2人ともなかなか性悪なので、きっと君には好かれない。最悪なのは2人がそろったときだ。悪魔、いや、地獄そのものとでも言おうか。ただ者でないことは一目で分かる。全身の血が煮えたぎり、好戦のオーラに満ちている。 あちこちの噂や伝説がごっちゃになって、狙撃手ピルファの目はマシーニストの職人技でサイバネティックに生まれ変わり、視界と、ライフルの追尾システムを連結させていることになってるらしい。 視認イコール狙撃。 狙撃イコール死亡。 フォールンから彼らへの、技術供与の証左がある。別人...というよりもっと凄いものになる技術だ。彼らの物理的な実体を、完全従属化したメカニクスと「結婚」させてしまうのだ。既にタニクスという傭兵が実験を受けていた。あれはフォールンというより、機械だ...双眸にフォールンの伝統的機械信仰に対する、強い嫌悪が見てとれた。スプライサーと、ZIVAを介した増強の結果がこれか。一線を越えた実験だ。鉄の英雄が万能の御手で、低きに貶めた所業だ。ピルファ、君はいま何を考えてる? この2人と、タニクスと、スプライサーは、それぞれが自分の野望に駆り立てられた、ある種の危険因子たちだ。話し合いで妥協点を探るよりは、互いに得物をぶつけ合うほうが、ありえる。 いや、全員がそうとは限らない。彼らがフォールンの古い文化を打破して、より素晴らしい何かを生み出す可能性... 決して、彼らが新たに忌むべき進化の警鐘などではない可能性を... ...見つけられるだろうか。せめて、そう願おう。この恐ろしい、命とテクノロジーの癒着が、偶然の産物に過ぎませんように。この禍々しい融合体が、やがて来る明日の象徴などではありませんように。