The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

十倍返し

「誰かを痛めつけるような奴、もううんざりなんだよ。 お前も含めて。 ちなみにお前の「罰」、まだ終わってないからな? けどさ、いちど拷問の時にちょっとでも快感覚えちゃったら、もう俺たち...ケダモノだよな。 堕ちるとこまで堕ちちゃった、っていうか。 マトモになる努力、したほうがいいと思う?」 C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書——「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 ハウス・オブ・ウルブズ終焉の数日間を目の当たりにしたのは、レクシス・ヴァーンだった。冷ややかな憎悪に突き動かされ、彼はサービターを狩り、屠り続けた。最後の1つの命が消え、狂ったハウスが瓦解するその時まで。 しかしレクシス・ヴァーンの怒りが、そこで収まることはなかった。彼の憤りを形作っていたのは、ウルブズのみではなかったから。ハウスの勢力図が生み出すしきたりに執着していた輩は、ひとり残らず敵だった。 レクシスは、ドレッグとして若い時分から「飢えていた」という。下層民でない子らが逞しく成長していく一方、彼や、彼の最も身近に居るきょうだいが抑圧されている現実を、苦々しい思いで見つめていた。いやしい子たち、哀れな子たち、いらない子たち...けれどレクシスは気づき、見抜いていた。アルコンの崇敬に嘘があることを。サービターが神の位に居座り、崇拝をその身に受けるのは、大衆をコントロールするための手段であることを。 おそらく過去に、フォールンの神学理論に大きな翳りの生じた時期があったのだろう。もはやその心配は無い。ハウスは戦火の中で分裂した。年老いた貴婦人が——ずっと前、俺をわざと無視してた奴だ——今や切羽詰まった表情で彼に歩み寄る。死にたくない!と。 底辺として虐げられる日々を通じ、レクシスの中では憎しみが育ち、そこにはある種の強さが芽生えていた。ひねくれた除け者たちの中で、彼が唯一共感できた皮肉は、自分たちを「スコーン(さげずれた者)」と呼ぶことだ。日ごと向けられる冷笑を、いっそ名誉勲章として身につけてやるのだ。そしてレクシスはレクシスで、怒りのはけ口を見つけていた。新しいきょうだいは、それを賞賛した。彼らはそれぞれ、個性豊かに狂っていた。みんながみんな少しずつ、ねじ曲がっていた。 レクシスがひと味違ったのは、彼らが正気を失う一方であったのに対し、その心と決意がぶれなかったことだ。徹底的に、苦しませて、殺す。それが俺の為すべき事。どす黒く染まった理性が捉えたのは、彼の認識を拒否した、まさにそのサービターだった。まさに、フォールンをフォールンたらしめてきた機械。 裂いて、刻んで、引きちぎって。メタルボディに対する彼の攻撃は、断末魔にも似た故障音が岸辺に、いやリーフに...星系全体にこだまするまで続いた。そして同じ事を、バロン達を拒絶したものすべてに繰り返した。彼の味わった苦しみを、十倍にして返す。 相手の目から生気が失われてゆく。それを見るのはとてもとても楽しかった。