The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

未完了の仕事

エルダーズ・プリズンのセキュリティハブで、バリクスはじっと考えることがあった。 まだ大いなる機械が目を覚ますとき、それは身体の奥深くに感じられた。星系内のフォールンは、皆同じだっただろう。それは戦慄、遠い遠い昔の何かの記憶。答えでも力でも何でもいい、感じるだけでなく実体的な何かが満ち溢れてくればよいのにと、そう願ったことがある。 しかし現実には、自分がどれほど深くまで落ちてしまったかを思い知らされるだけだった。 コンソールに拳を叩きつける。プリズンの住人が檻の壁に爪を立てている。考えてみれば、あれが何ももたらさなかったという言い方は正確でない。むしろマイナスに働いた。今や彼は疑念を抱いている。 彼の目標はいつだってシンプルだった。ハウス・オブ・ジャッジメントの旗印になること。仲間を団結させること。それを天命として生まれてきた。 光が星系に注がれながら、照らされるべきものが皆無であるいま、何を心待ちにすればよいのか?女王も、エリスも、オシリスもいない。大いなる機械がエリクスニーを覚えている証もない。来る日も来る日も、ただ生きている。単に、まだ呼吸しているという意味だけれど。この状況でドレッグたちは、なぜ強くいられるのだろう?何が支えになっているのだろう? 「バリクス」突然通信機からペトラの声が聞こえてきた。「リージョンのハーベスターがロケーション189で妨害を受けてる。捕獲チームが向かってるわ。アリーナの生存者よ。受け入れ準備をして」 ペトラ・ベンジ、結局彼女だけが、彼のためにここへ残ってくれた。部屋には誰もいなかったが、その声にうなずく。たった1人の味方の声に。 周波数を合わせる。「分かった。ベイ41へ受け入れを。私もチームに会おう。新しい部屋を用意する...お客様のために」音声合成部が不快な音を立てる。そろそろチューニングが必要か。 「了解」通信終了。 壁に立てかけていた杖を取り、ベイへ向かう長い道のりを歩きだす。道すがら思索を巡らせる。様々な選択肢や情報について、それから機密の事項について。 ハウス・オブ・ジャッジメントは機密事項に守られていた。曖昧なまま保持できる知識があればあるほど、より重要な人物になれた。機密事項は可能性を生み出し...動揺を引き起こした。 しかし判定、真の判定は、階級を要求した。そのエリクスニーの階級も、ハウスの崩壊と共に消滅した。ガーディアンたちはケルを、プライムを、確実に潰していった。現在も残る文化といえば、辺境戦争以前に出現したような海賊と漁り屋と一匹狼だけ。信頼や名誉はおろか、必要性すらない。 けれどエリクスニーには、ひとひらの希望がまだ残っていた。キングスのケル、クラースクだ。キングスは、黄金時代に辺境戦争を共に終結させた判定に理解があった。クラースク...エリクスニー統一の夢を実現しうる最後の希望。連絡をとらなければ。 そこで彼は、グロックスという名の賞金稼ぎを雇った。クラースクを見つけ出し、互いに欠かせない存在であることを再確認する。グロックスはバリクスが軽蔑する人種の象徴のような男だった。貪欲でプライドが高く、自分のことしか考えていない。交渉の席でグロックスは、バリクスに侮蔑の言葉を延々と浴びせた。 卑怯者、物乞い、歴代ケルの太鼓持ち。しかしそれらはすべて口だけであり、結局彼は仕事を引き受けた。螺線状構造のエーテル結晶を4個と、エルダーズ・プリズンから出してやるという約束、それだけを取り付けて話がまとまった瞬間、グロックスはヒステリックな馬鹿笑いを響かせた。 「あはは!しくじったな。仕事はもう終わってるぜ!」グロックスが話すのは少し前の時代のエリクスニー語で、バリクスが彼を雇ったのもそれだけが理由だ。「大事な『ケル様』がいなくなったもんだから、必死なんだな。聞いてないのか?」 バリクスはため息をついた。「キングスのケルは死んだぜ、雑用係。あのイカれた、フィクルルとかいうアルコンと、奴が『父上』って呼んでるどっかのアウォークンのチンピラに殺られたんだ。残りのキングスは地球のデッドゾーンに身を寄せてる。大いなる機械の欠片の影にな。ところで約束のエーテルはいつ——」 続きが耳に入る前に、バリクスは彼の口を永遠に封じていた。偉大なるエリクスニーの鎖につながる最後のチャンスが断たれてしまった。これから自称ケルが現れても、そいつはバリクスのことも、ジャッジメントのことも、ハウスを統治する法のことも知らないだろう。大嵐で散り散りになった子らは、皆死んでしまった。 だが、フィクルルがケイドから...あの「6」から逃げおおせたとは?グロックスはまともな男とは言いがたいが、嘘つきではなかった。もしフィクルルが生きていて、クラースクを殺せるほどの力を持っているならば...それにグロックスが言っていた、アウォークンのチンピラとは誰だ?頭がくらくらしてきた。フィクルルが生きている限り、リーフは安全とは言えない。通信機のチャネルを切り替え、目当ての接続先を探す。 「マスターケイド。こちらバリクス。貴方とペトラの取引に関し、お会いしてお話ししたい事があります。お仕事がまだ、終わっていないようですよ」