The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

不幸中の幸い

バリクスは外套に身を包み、スパイダーの巣を下りて行った。判定の印をつけて「入り組んだ岸辺」を訪れるのは自殺行為だ。スパイダーを祝福して通過せしめても、2回は身ぐるみをはがされバラバラにされるだろう。 スパイダーの宮殿に快楽の嬌声が響き、彼はげんなりした。勝利と敗北の叫び声は、野蛮なエリクスニーを思い起こさせる。種族が生来必要とする矜持を、安物のアクセサリーや宝石を賭した博打に貶めているのだ。 バリクスは低くかがんで群衆を観察した。バンダルだ。部屋の隅に、明らかにあのハンターバンガードを中心とした集団がいる。シティの外にいるときは、ここへ来るのか。 バリクスは見物人の間をすり抜けて、ケイドの隣に陣取った。彼はそれに気づいたはずだが、無言だった。バリクスも自分の立場を考えて黙っている。ケイドは賭けに負け、スパイダーのボディーガードに数千グリマーとサイドアームを持ってかれていた。 ケイドは右手でナイフをくるりと回し、大げさにため息をついた。「話がしたいんなら、1杯おごってくれよ」 2人は部屋の奥に静かな場所を見つけた。ケイドがボックス席に腰を下ろし、こちらの出方を待っている。 「貴方はいつも、リーフの心強い味方でいてくださる」バリクスは何とかして、非常に特徴ある声を抑えようとした。音声合成部は本調子でない。部屋中に狂った声を響かせてしまうのは避けたかった。「バロンを、犯罪者どもを捕らえてください。アウォークンのために。ペトラのために」 ケイドはグラスをあおり、空になったそれをテーブルに置いた。どこか険しい目つき。エクソがこれほど表情豊かだとは驚きだ。「はっきり言えよ、バリクス」 「フィクルルです。バロン最後の1人。奴は生きています」 ケイドが2度、きっぱりと首を振った。頭のツノが宙にアーチを描く。「冗談はやめてくれ、奴は死んだ。ここを一発ぶち抜かれてな」バリクスの胸の中央を指で突く。 「地球での目撃情報が入っています。本当は貴方も分かっているでしょう、エリクスニーなら、その状況からでも何とかできてしまう。ミスラックスのように...タニクスのように!」口が滑った。プリズンの看守は瞬時に後悔する。 「俺の周りで、タニクスって名を二度と口にするな...いいな?でなきゃ義手が4本に増えるぞ。話は終わりだ。運が悪かったな」ハンターは立ち上がり、その場を去ろうとした。バリクスは片方の義手を伸べ、バンガードの腕をつかんだ。 「失言、心からお詫び申し上げる。ただ...聞いていただきたいのです」 ケイドは腕を振りほどいて立ち止まり、今回だけはとフォールンを見下ろした。 バリクスは席上で姿勢を正した。「私を...ザヴァラ司令官の元へ連れて行ってください」タイタンバンガードの名は、さすがに口の中で一瞬よどんだ。「私はある情報を持っています。彼にとって有益なはずの情報です。司令官のところへ、連れて行ってください」 ケイドは目をしばめかせた。「シティに...?冗談じゃない、ありえないに決まって...」 どさっ。バリクスは音を立て、外套の中に隠し持っていたハンドキャノンを卓上に放った。くすんだ茶色。棘の突き出たフォルム。エーテル技術を応用したトリガーとマズルのアセンブリ。ケイドが驚いて眉を上げた。 「信頼の証に差し上げます。リーフの形見です。もちろんアップグレード済みですよ——とんでもなく強くなっています」 ハンターバンガードは、興奮を抑えようと頑張っていた。「そいつは、ええと、そいつは最後の1丁なのか?最後にその型を見たのはいつのことだか...」 「数少ない最後のうちの、1丁です」バリクスの声は淡々として落ち着いている。 ケイドはテーブルの武器を引っつかんだ。サイトを確認し、少しの間掌中で転がして重量感を確かめた。間違いなく名品。ケイドはバリクスにうなずいてみせた。 「運が悪かったのは俺のほうか。来いよ。乗せてやる」