The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

DLXXIX.

DLXXIX. 記録者: 書記官トゥラザト 12時間にも及ぶ激しい揺れの後、皇帝が戻って来た。皇帝は奇妙な振る舞いを見せ、どうやら船外で幻覚に苦しめられていたようだった。王室整備士が皇帝のスーツの圧力ゲージの故障を確認したので、振る舞いの変化はそのせいかもしれない。しかしながら、この理解の及ばない状況の中で12時間も過ごしたにも関わらず、スーツ(そして皇帝自身)が無事だったとは、にわかには信じ難い。 帰還に際し、皇帝は狂気に満ちた目で次のように語った。 「我々は世界の果てにたどり着き、ワシはその広がりを覗き込んだ。それは我が耳に囁きかけ、ワシに悟らせたのだ。死がやって来る。ワシは死の使者として選ばれたのだ。終わりが全てを飲み込むだろう」 皇帝は、まるで肩の荷が下りたように深いため息をついた。 「全てに意味がないとしたら、最後に残るものは何だ? 喜び。安らぎ。自由。喜びのために喜びを追い求める、真の自由だ。人はその喜びを求めずにはいられない。支配者だった頃はそれを知っていたのに、追放されてから忘れてしまっていた。もう二度と忘れはしない」 皇帝は顧問と私の勧めを受けてお休みになった。先程の奇妙な振る舞いが心の病の一時的な症状だった可能性があるためだ。展望室にお戻りになる前に、皇帝は自身の体験を詳しくお話しになった。ゾーゾンが証言したその奇妙な内容をここに記す。 「船外で、皇帝は宇宙の縁の向こう側を目にしたが、そこには何もなかった。変わったものを目にしなかったわけではない、皇帝は“無”を目にしたのだ。そこでは光も闇も、生も死も、何もかもが欠落していた。欠落そのものすら無かったのだ。そしてその“無”の外から、暗黒の言葉で囁き声が聞こえてきた。頭に鳴り響く声によって、自身の言葉さえもつかの間の間忘れてしまったほどだ。すると突然、“無”が立ち消え、“何か”が現れた。それは異国の艦隊だった。次に、あらゆる世界と生命の破滅が見えた。そこには皇帝の敵や皇帝ご自身も含まれており、自らの亡骸が腐り、骨が朽ちる様子を目にした。解放される直前に、その囁き声はさらに大きく鳴り響き、この終焉を皆に知らしめるという栄誉が皇帝に託されたのだ」