第18章
「おい!」イマルが呼びかけた。デレリクト内の壁が返事をするようにきしみ、つぎはぎの船体が今にも引き裂かれそうに震動した。
彼は独りだった。
イマルが船内をうろついていると、壁棚に並べられたガラスの容器が目に留まった。とある瓶の中には、いくつもの目玉が浮かんでいた。粘度の高い液体の中で回転しながら、イマルの動きを追っている。そこには何百もの奇妙な標本や有機体が並べられていた。中にはまだ生きているものもあるように思えたが、イマルはそれを確かめようとは思わなかった。
奥から微かな声が聞こえてきた。超低周波音の震動が単調な唸り声と重なり、言葉で表せないような音になる。その音が少しずつ、イマルに向かって近づいてくる。
そして… 音が止まった。
すべてが止まった。
イマルが振り返ると、目の前に血の色の瞳をしたゴーストがいた。
「下がれ!」イマルが金切り声を上げた。
赤眼のゴーストはイマルの言うとおりにした。その瞳はつぎはぎのグロテスクなシェルから突出しているかのようだった。シェルは変形し、ねじれて片側に偏っている。そのゴーストは、まるで世界の重みを背負っているかのように傾いたまま宙に浮いていた。
「ほ… 放浪者はここにいるか?」
ゴーストの瞳は、赤から青へと幻惑的なパターンで素早く切り替わった。
「今のは“ノー”ってことでいいのか? 貴様、名前はあるのか?」
そのゴーストの眼がイマルを見つめたまま、瞬時に紅に染まった。
「なるほど。ええと、放浪者――放浪者がヘッドレスに関する品をいくつか持ってるはずだ。それを借りてもいいか? 何でもいいんだが」
そのゴーストは「カバルの脳みそ」と記された容器まで漂い、愛おしそうにシェルで蓋を撫でた。
「違う!」イマルが甲高い声を上げた。「いや、その、脳みそはいらないんだ… いや、それもいらない。違う、そうじゃない――その目玉も貴様が持ってていい」
無口なゴーストはイマルの周りを浮き沈みし、フラップを彼のシェルに滑り込ませた。ゴーストはイマルを引き寄せ、彼の瞳に触れた。
「貴様も忙しいようだから、また来る――ものか」イマルは囁きながら急いで抱擁を振りほどくと、トランスマットで消えた。