The Grimoire Archive
グリモア トラッカー 書物

狂気という名の贈り物

「砥石の歌、と呼ばれるそれは、どこか痛々しいサイレンに似ている。甲高い響きに、むらのある音色。 メロディーは、やがて来る何かを警告するかのよう... 何が来るのだろう。冒険者か、賞金稼ぎか、悪党どもか、それ以外の招かれざる客か。 そうした奴らはここで、目的となるものを見つける。 あるいはここを、世間から身を潜める避難所とする。 『英雄』やらは、この洗練された土地々々を、取り戻そうとするらしい。 何が『取り戻す』だ。 岸辺は誰のものでもない。今までも、そしてこれからも。 狂気が宿り暴力の統べる、壊れた土地であり続ける」 C.C.ラグランジュ訳『フォールンの書——「入り組んだ岸辺」に関する覚え書きと観察』より抜粋 こんな事が気にかかるのは私だけだろうか。 あの爆弾魔...「ボマー」はもともと狂気の輩だったのか?あるいは何かが、彼を狂気へと駆り立てたのか?それは「狂える」という才能なのか?それとも、呪いなのか? このハウスというシステムが生み出す構造、そして当たり前の日常。そこから飛び出し、生き抜こうとして戦い、彼は壊れた。何を見たのだろう。何をしたのだろう。あの岸辺から試練を受けるのは、まさにその場所をホームと呼ぶ者たちだ。大多数は、単純に、死ぬ。殺伐の土地が冷酷な意思を持って、それを為す。そうでなければ、細分化された広大な縄張り候補を狙う、札付きの「代理人」が手を下す。無法者に殺し屋、カニバリズムの実践者、アウォークンのパトロールに...ガーディアンと呼ばれる「英雄」。 このいわくつきの入り組んだ岸辺で命を捨てる方法はいくらでもある。それらに抗うことは容易ではない。ましてやその後に自我を保っていられれば、ほとんど奇跡だろう。 だが...ボマーは生まれつきそうだったのではないか?狂人。精神異常者。破滅を渇望し、混乱とそれに続く滅亡を求める者。 降着フィールドの乱発に、起源書庫の爆撃。カニクスは、もはや手のつけられないリーフの敵であるかと思えば、見下されていたきょうだいの心強い味方となって動くこともあった。絆で結ばれた者たちのために戦うことで、彼は強くなり、自身に欠けていた「戦う意味」を見いだしもした。けれど彼のやった事は、数え切れないほどの悲劇を生んでいる。 以上のような...狂気の誕生に関する考察を経て、長年引きずっていたある思いが、いま私の中で頭をもたげている。 アウォークンのライブラリーを探したい。リーフの、いや、岸辺についての知識を持つクリプトアーキと話し、ボマーの行動記録を洗いざらい調べたい。ボマーの破壊活動で焼け苦しんだ人々と、同じ痛みを味わいたい。戦場を忘れたくない。かのライブラリーが焼け落ちた、空前絶後の喪失を追憶して涙したい。 邪悪な化け物について見聞を広め、愉悦に浸る...ガーディアンの目をかいくぐって、そんなひとときを自分に許すのだ!まあ、ここでニヤニヤするのも大概にしておこう。なにせ私が語らんとする真実は、まだ明らかになっていないのだし、それに... 爆弾魔カニクスは、この世を去った。岸辺は変わらぬ姿でここに在るのに。カニクス、君はあれほど勇猛で、努力家で、信じられないほど強かったのに! なあ、もしも岸辺が「いわくつき」のままで、その境界は絶えず揺らいでいて、悲愴の舞台であり続けているなら...君以外の誰が、そこに狂気をもたらすのだろう?長らく行方知れずだった、かの黄金時代の初期生存者か。お次はどこぞのアウォークン、番狂わせにフォールン... そしたら今度は光の戦士、ガーディアンの登場だ。 要はどんどん来るってことさ。そうすればもう、君が正しいかどうかなんて関係ない。賭けは着々と、岸辺に有利になっていく。狂気に有利になっていく。 ガーディアン。最後のひとりになったとしても、お前はお前でありたいか?